人工関節センター

徹底的に軟部組織を温存した低侵襲手術を最新の手術支援器具 (ナビゲーションシステムやロボット)を積極的に導入して安全に行っています。

藤田医科大学ばんたね病院整形外科の人工関節センターでは、幅広い年齢層の様々な関節疾患、関節周囲外傷、スポーツ障害に対して低侵襲で安全な手術・医療を提供しています。特に股関節疾患に対してはナビゲーションシステムや手術支援ロボットを使用した人工股関節全置換術(関節包靭帯温存したMIS人工股関節手術)を積極的に導入し、股関節鏡を用いた低侵襲手術、そして再生医療(PRP療法)などの最先端治療や骨切り術(骨盤、大腿骨)も併せて行っています。

↑当院で使用している人工股関節置換手術支援ロボット「ROSA Hip システム」

 

藤田医科大学ばんたね病院人工関節センタ-は、米国ジンマー・バイオメット社が開発した人工股関節置換手術支援ロボット「ROSA Hip システム」をアジアで初めて導入しました(※オーストラリアを除く)20221022日に1例目の人工股関節置換術を実施し、その後も良好な成績を収めています。そのアジア1例目の手術動画を含むプレスリリース記事がございますのでこちらをクリックしてご覧ください。

  • 「Rosa Hipを使用した手術」(動画)

  • 「当院で使用しているRosa Hip」(動画)

手術後のスムーズな回復へ、リハビリテーションを重視

ひざ・股関節・ひじ・肩などの治療が必要な患者さんのために、ばんたね病院 人工関節センターは、整形外科とリハビリテーション科が密に連携し、手術前からリハビリテーションまで幅広くケアをおこなっています。担当する医師と技師が、段階的な治療計画(クリニカルパス)に沿って、最適なリハビリテーションをおこないます。他院への転院はせず、退院後は自宅からの通院での治療継続が中心です。

人工関節センター センター長:金治 有彦 教授  副センター長:寺田 信樹 教授

・金治有彦教授から股関節に痛みのある患者さんに対してメッセージ(動画)があります。
「【関節が痛い.com】藤田医科大学ばんたね病院 金治 有彦先生メッセージーYouTube」は
こちら

人工関節センターについての紹介記事はこちら(医療新聞DIGITAL)

・金治有彦教授がMISとロボットの融合ROSA Hipの可能性についての記事は
こちら(医療新聞DIGITAL)

対象疾患など

・ひざ:変形性膝関節症 ・股関節:変形性股関節症、大腿骨頭壊死症など
・肩:変形性肩関節症、上腕骨頭壊死、関節リウマチ、広範囲腱板断裂に対するリバース型人工肩関節置換術
・手、指の関節やひじの疾患 ・関節リウマチ

代表的な股関節疾患

1.変形性股関節症

股関節疾患の治療は主に金治有彦(整形外科臨床教授、人工関節センター長:火曜日午前外来)が担当 

① 変形性股関節症とは
変形性股関節症は、関節軟骨の変性・摩耗により関節の破壊が生じ、これに対する反応性の骨増殖を特徴とする疾患である。
② 変形性股関節症の原因
変形性股関節症は原疾患が明らかでない一次性股関節症と、原疾患の推定される二次性股関節症に分類できる。本邦では二次性股関節症が全股関節症の約80%を占めており、その原因として発育性股関節形成不全(DDH)や寛骨臼形成不全などの先天性疾患、化膿性股関節炎などの炎症性疾患、外傷、Perthes病、大腿骨頭すべり症、大腿骨頭壊死症、関節リウマチ、強直性脊椎炎、シャルコー関節などが知られている。
③ 変形性股関節症の分類
変形性股関節症は、日本整形外科学会の基準により、前期、初期、進行期、末期に分類される。分類は関節裂隙の状態、寛骨臼および骨頭の変化、痛みや歩行障害、股関節の可動域からなされる。その中でも基本となり、股関節痛や可動域制限などの臨床症状と最も関連が高いのは関節裂隙狭小化の程度である。
初期:関節裂隙の狭小化はない
前期:軽度の関節裂隙狭小化を認める。
進行期:関節裂隙狭小化を認める(関節裂隙幅が2mm~寛骨臼と骨頭の部分接触)
末期:関節裂隙が完全に消失し、寛骨臼と骨頭が広範囲に接触

1:日本整形外科学会股関節症病期分類

④ 変形性股関節症の治療
日常生活指導、運動療法、装具療法などの保存療法のほか、関節温存術、人工股関節全置換術(THA)などが挙げられる。疼痛がそれほど強くない患者や、手術が不耐と考えられる患者に対しては保存療法が行われるが、根本的な治療法は手術(人工股関節全置換術)である。
 
・当施設で行われている人工股関節全置換術
仰臥位前外側進入最小侵襲人工股関節全置換術(AL-Supine approach)+関節包靭帯温存手技+術中人工股関節置換手術支援ロボット「ROSA Hip システム」使用もしくはポータブルナビゲーション使用)

↑当院で使用している人工股関節置換手術支援ロボット「ROSA Hip システム」

当院のTHAで使用しているAR-ナビゲーションシステム(AR Hip)の写真と動画

THAと手術進入法(MISアプローチ)について
THAは健康関連QOL尺度や歩行機能、スポーツ活動レベル、心肺機能、満足度など様々な指標を改善させている治療法である。中年期以降の進行期・末期変形性股関節症となると、関節温存術を行った際に術後に病期が進行しやすいと言われている。THAはインプラントが劣化した際に再手術が必要となる場合があるという欠点があるが、上記のようなメリットや関節温存術での病期進行を考慮して、50歳台でも積極的に行っている。
従来から行われている側臥位にて後方からアプローチする術式(PL)は、股関節の後ろにある短外旋筋群を切開して行うため、視野が良好で医師による経験値の差が出にくい分、術後の脱臼率が高いという報告がある。近年では、仰臥位で股関節の前方や前外側からアプローチをする術式が多く行われるようになってきている。前方アプローチ(DAA)は縫工筋と大腿筋膜張筋、前外側アプローチ(ALS)は中殿筋と大腿筋膜張筋の筋間を進入する手技で、どちらも筋肉や腱を切断することがないため、低侵襲で脱臼率が低く、早期回復が期待できるという利点が報告されている。
THAを受けた患者110人をPL群63人とALS群37人に分けて短期成績を比較した研究の報告によると、術後の痛みに関しては、両群間でvisual analog scaleや麻薬の消費量に有意差は認められなかった。一方で、ALS群はPL群に比べて杖の使用開始が有意に早く(p<0.01)、入院期間も短く(p<0.01)、また外旋筋の筋力回復が良好であった(p<0.01)。
THAの合併症としては、脱臼(初回THAで1-5%)、深部感染(0.1-1%)、DVT(20-30%)、PE(0.5-1%)が頻度の高いものとして知られている4)。我々の施設では仰臥位前外側進入による人工股関節全置換術の際にナビゲーションシステムや術者操作型レッグポジショナーを併用し、しかも関節包靭帯については腸骨大腿靭帯垂直束、恥骨大腿靭帯、坐骨大腿靭帯を完全に温存している。そのため術後脱臼リスクは非常に低く、これまで1100例中脱臼症例は1例のみである。

・術後リハビリスケジュール
術翌日より全荷重歩行訓練開始
入院期間:7-14日
スポーツ復帰: 術後経過にもよるが術後4週より可能

当院のTHAで使用しているポータブルナビゲーションシステム (Hipalign)

2,大腿骨頭壊死症

① 大腿骨頭壊死症とは
大腿骨頭壊死症は大腿骨頭に阻血性の壊死が発生し、骨頭の圧潰変形をきたす疾患である。進行すると二次性に変形性股関節症を引き起こす。
② 大腿骨頭壊死症の病態・分類
症候性大腿骨頭壊死症と特発性大腿骨頭壊死症に分類される。症候性は外傷、塞栓、放射線照射、手術後など原因が明らかなもので、特発性は原因が不明のものである。しかし特発性大腿骨頭壊死症も原因は不明だが、ステロイドやアルコールと関係があることが知られており、これらは「広義の」大腿骨頭壊死症とされている。それらにも当てはまらない原因が完全に不明のものは「狭義の」特発性大腿骨頭壊死症とされている。

③ 特発性大腿骨頭壊死の病期分類・病型分類4-6)
 特発性大腿骨頭壊死症の病期分類は圧潰の有無や程度によって判定され、病型分類は壊死の範囲によって判定される。
 病期分類
Stage I: X線像の特異的所見はないがMRI・骨シンチグラム・病理所見では特異的所見(MRIのT1強調像における骨頭内帯状低信号域など)が見られる。
Stage II: X線像で帯状硬化像があるが、骨頭の圧潰は見られない。
Stage III: 骨頭の圧潰はあるが関節裂隙は保たれている時期である。圧潰が3mm未満ならStage IIIA、3mm以上ならStage IIIBとされる。
Stage IV: 明らかな関節症性変化が認められる。

 病型分類4-6)
Type A:壊死域が臼蓋荷重部の内側1/3未満にとどまるもの、または壊死域が非荷重部のみに存在するものとされる。
Type B: 壊死域が臼蓋荷重部の内側1/3以上2/3未満の範囲に存在するものとされる。
Type C-1:壊死域が荷重部の内側2/3以上に及ぶもののうち、壊死域の外側端が寛骨臼縁内にあるものである。
Type C-2:壊死域が荷重部の内側2/3以上に及ぶもののうち、壊死域の外側端が寛骨臼縁を超えるものである。(下図参照)
 
病型分類により骨頭圧潰の発生頻度が異なり、type Aが16%程度と最も低く、type Bは50%程度、typeC-1は61%程度であり、typeC-2が最も高く91%程度となる。圧潰が発生すると予後は悪くなるため、治療方針に影響する。



④ 大腿骨頭壊死症の治療法について4,5,6)
 病型と病期を考慮して治療方針を決定する。軽症例では免荷と鎮痛薬の投与のみで経過観察を行う保存療法を行う。外科手術を行う場合は選択肢が二種類に大別される。
一つは大腿骨内反骨切り術、大腿骨頭回転骨切り術、血管柄付き骨移植などの関節温存術である。こちらは中等症、若年~中年で考慮されることが多い。
もう一つは人工大腿骨頭置換術または人工股関節全置換術である。これらは重症例や高齢者に対して考慮されることが多い。

⑤大腿骨頭壊死症に対するTHA 、特に若年に対するTHAの合併症やリスク
 THA(人工股関節全置換術)は骨頭の圧潰が進行した重症例に対して行われることが多く、疼痛によりQOLが低下している場合は効果が高い。しかし術後の脱臼やゆるみの有無のチェックが継続的に必要であり、10~15 年程度の経過で、人工関節再置換術が必要となることが多い。
 THAの合併症には脱臼(初回THAで1~5%,再置換術で5~15%)、深部感染(0.1~1.0%、再置換術で発生頻度が高くなる傾向あり)、DVT(20~30%)、PE(0.5~1.0%)である4,5)
 若年者に対するTHAのインプラント生存率は近年改善傾向にあるが、再置換の際の合併症などを考えると手術適応については患者の希望を考慮したうえで慎重に考慮する必要がある。我々の施設では仰臥位前外側進入による人工股関節全置換術の際にナビゲーションシステムや術者操作型電動レッグポジショナーを併用し、しかも関節包靭帯については腸骨大腿靭帯垂直束、恥骨大腿靭帯、坐骨大腿靭帯を完全に温存している。そのため術後脱臼リスクは非常に低く、これまで1100例中脱臼症例は1例のみである。

 当院で使用している術者操作型電動レッグポジショナー (Rotex table)
関節包靭帯温存THAでの患肢牽引やステム挿入時の内転・外旋操作に有用

参考文献

1)日本整形外科学会,他 監:変形性股関節症診療ガイドライン2016(改訂第2版).南江堂,2016
2) 久保俊一,変形性股関節症, In今日の診療指針第8版,医学書院,2020
3) Ukai T, Ebihara G, Watanabe M. Comparison of short-term outcomes of anterolateral supine approach and posterolateral approach for primary total hip arthroplasty: a retrospective study. J Orthop Traumatol. 2021 Feb 27;22(1):6.
4) 標準整形外科学. 第13版. 医学書院. 2017年1月.
5)厚生労働省 指定難病071 特発性大腿骨頭壊死症
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000089951.pdf

6)変形性股関節症診療ガイドライン2016 日本整形外科学会 日本股関節学会
https://minds.jcqhc.or.jp/docs/minds/osteoarthritis-of-the-hip/osteoarthritis-of-the-hip.pdf

変形性股関節症・変形性膝関節症に対するPFC-FD療法

 当院では「今は手術できない。もしくはもうしばらくは手術したくない」という考えの患者に、バイオセラピー【PFC-FD療法】をご紹介しております。ご自身の血液から血小板由来の成長因子を抽出し、患部に注入することにより、痛みの緩和や傷ついた部位の機能改善を目指す治療です。

ご興味がお有りの方はぜひご相談ください。(毎週火曜日 センター長 金治外来)

 

PRPを応用した技術

  PRPPlatelet Rich Plasma:多血小板血漿)療法とは、患者様自身の血液に含まれる成長因子による修復機能を促進して治癒を目指す再生医療です。 近年、メジャーリーガーなどプロスポーツ選手のケガの治療にPRP療法が行われ話題を集めていますが、一般の方への変形性関節症・腱や筋肉の損傷などに対する治療法としても注目されています。

 PFC-FD療法はPRP療法を応用した技術です。患者自身の血液を採取しPRPを抽出してさらに成長因子を豊富に含むPFC-FDPlatelet-derived Factor Concentrate Freeze Dry:血小板由来因子濃縮物-凍結真空乾燥)に加工したものを患部に注射します。その結果自己修復機能が促進され、痛みが軽減されたり損傷部が治癒されたりします。

 現在ではPFC-FD療法もPRP療法と同様に、関節症・関節周囲の靭帯・軟部組織などの治療に活用が始まっています。

 

PFC-FD療法の流れ

①診察の上、約50mlの血液を採取厳格な管理がなされた加工センターで検査・加工

②採血から約3週間後、血小板由来の成長因子を患部へ注射



変形性膝関節症への主なアプローチ

 疾患の状態やお身体の状態などを考慮し、最適な治療法を選択します。

◎【人工膝関節全置換術(TKA)】:膝関節全体を人工関節に置き換える、最も基本的な治療法です。
◎【人工膝関節単顆(たんか)置換術(UKA)】:関節の一部のみを人工関節に置き換える、体への負担が少ない方法です。

・手術支援ロボット「Rosa Kneeシステム」を使用した人工膝関節置換術(TKA

当科では股関節手術と同様に20232月から変形性膝関節症に対するTKAで手術支援ロボット「Rosa Kneeシステム」による手術を開始しました。ご興味がお有りの方はぜひご相談ください。(毎週火曜日 センター長 金治外来)


↑人工関節手術支援ロボット「ROSA Knee システム」

Rosa Kneeシステム導入の利点

①  より正確な手術を実現

 これまで執刀医の経験や技術により感覚的に行っていたことがデジタル化・数値化されるため、熟練度の差に関わらず良好な結果が期待できます。手術前の計画通りの手術が可能ですが、軟部組織緊張を考慮したリアルタイムでの手術中の計画変更も可能なため患者さん一人ひとりに対して柔軟に対応できるシステムです。

  患者満足度や術後のQOL(生活の質)が向上
 Rosa Kneeシステムを使用したTKAでは術者の経験にゆだねられていた骨の角度や人工関節の設置位置などを0.5°0.5mmといった細かさで術中に微調整ができるため,より正確な手術が可能となり、結果として患者さんの満足度や術後のQOL(生活の質)の向上につながります. 

  合併症の少ないより安全な手術を実現
 精度が担保された手術支援ロボットの活用によって、合併症や患者さんの体にかかる負担も少ないことが期待されます。

  保険適用で安心
 ROSA Knee システムは保険適用で治療が受けられます。手術の適応については、医師の診断が必要です。

手術後の治療計画(クリニカルパス)のイメージ

人工肩関節置換術

人工肩関節置換術は形状の異なる2種類の人工関節があります。
1) 解剖学的人工肩関節置換術 (total shoulder arthroplasty: TSA)  
適応疾患
腱板断裂を伴わない肩関節の変形
一次性変形性肩関節症、
続発性変形性肩関節症:関節リウマチ、上腕骨頭壊死、骨折や外傷後など

症例によっては上腕骨のみを変える手術(人工骨頭置換術)を行うことがあります。

またTSAの中でも骨を削る量を減らすタイプがあり、年齢、疾患に応じて使い分けを行います。

2)リバース型人工肩関節置換術 (reverse total shoulder arthroplasty: RSA)
適応疾患
65歳以上の自動挙上が90度以下の広範囲腱板断裂,
腱板断裂を伴う変形性肩関節症、腱板断裂症性肩関節症、関節リウマチによる肩関節症、上腕骨頭壊死、骨折後続発症など