難聴治療センター

難聴治療センターの対応疾患をご紹介します

1. 鼓膜再生治療

藤田医科大学ばんたね病院では、鼓膜に穴(穿孔)が生じて難聴になる穿孔性中耳炎に対して、リティンパ®をもちいた鼓膜再生治療を行っています。

1) 鼓膜再生治療の内容
慢性中耳炎、平手打ちなどの外傷、長期間の鼓膜換気チューブの留置により、鼓膜に穿孔が生じることがあります。穿孔が自然に閉鎖しない場合は、従来、耳の後ろを切開し筋肉の膜(筋膜)を採取し、鼓膜を用いて穿孔を閉鎖する方法が広く用いられています。

鼓膜再生治療は、鼓膜の再生を促進する作用を持つ成長因子(bFGFを含浸させたゼラチンスポンジを鼓膜の穿孔部に挿入します。ゼラチンスポンジを鼓膜再生の足場として用いることで、鼓膜の穿孔を閉鎖させる治療です。この方法では耳の後ろの皮膚を切開する必要がありません。2019年から健康保険適応となっています。 

2) 鼓膜再生治療の方法
①      局所麻酔として麻酔薬を染み込ませた小さな綿球を鼓膜の穿孔の周囲に約15分間留置します。注射の麻酔を併用することもあります。

②      硬くなった鼓膜の穴の周りの部分を切除して新鮮創化します。この作業により粘膜と皮膚を切り離すことで、鼓膜再生が促されます。

③      再生作用の働きを持つbFGFをゼラチンスポンジにあらかじめ添加した状態で鼓膜の穴に挿入し、ゼラチンスポンジの固定には血液製剤の接着剤(フィブリン糊)を用います。

 3) 鼓膜再生治療の特色
穿孔の大きさに合わせて、簡便に皮膚再生作用を持つ薬を添加したゼラチンスポンジを挿入することが可能です。4回までの施行によって90%以上の鼓膜の穿孔が閉鎖します。 

2. 中耳炎・真珠腫・耳硬化症

藤田医科大学ばんたね病院では、鼓膜再生治療では治療が困難な難治性の慢性中耳炎、癒着性中耳炎、周囲の骨破壊から顔面神経麻痺やめまいなどの合併症を引き起こす中耳真珠腫に対し、外耳道本来の形を温存する「外耳道後壁保存型」中心の鼓室形成術を行っています。

さらに、徐々に耳小骨の一つであるアブミ骨が徐々に動きにくくなることで難聴が進行する耳硬化症に対して、ワイヤーピストンを挿入し聴力を改善する「アブミ骨手術」も行っています。

 1) 難治性中耳炎や真珠腫の病態
穿孔性中耳炎でも病気の経過が長く、炎症を繰り返し、鼓膜の奥の中耳腔から乳突洞にかけて肉芽(炎症組織)が蔓延している場合、抗菌薬に抵抗性を持つ耐性菌が出現した難治性の中耳炎で耳漏を止める場合には、鼓膜穿孔の閉鎖だけではなく、中耳腔から乳突洞にかけての徹底的な清掃が必要となります。
また、中耳と鼻をつなぐ耳管の働きが悪いと、陰圧になった中耳腔で鼓膜が奥に引っ張られ凹む箇所が生じます。その凹んだ部分に、皮膚と似た組織が袋状になった真珠腫が発生します。真珠腫は周囲の骨組織を破壊しながら増大しますので、音を伝える骨(耳小骨)が破壊されると難聴が生じ、さらに放置すると顔面神経麻痺やめまいの原因にもなります。真珠腫の治療も手術によって徹底的に清掃することしかありません。

 2) 耳の手術(鼓室形成術)の方法
真珠腫に対する鼓室形成術には大きく分けて、外耳道を大きく削除する外耳道後壁削除型と、外耳道を自然な形に保ったままで真珠腫を取り除く外耳道後壁保存型、の2つがあります。

 

(1) 外耳道後壁削開型

真珠腫はほんのわずかでも取り残しがあると再発します。再発を防ぐためには、外耳道後壁の骨を大きく削れば死角が少なくなり、真珠腫が確認しやすい状態で手術が出来ます。本術式では取り残しによる再発が少ないと言われていますが、本来の外耳道とは異なる拡大された外耳道の形態になるため、
① 術後に定期的に耳鼻咽喉科で耳掃除を受ける必要がある
② イヤホンや補聴器が合わせにくくなる
③ 外耳道や中耳腔の形も変わるため耳が詰まった感じ(耳閉感)が生じる
などの問題があります。小児では外耳道後壁を削除すると水泳を行うことが困難となります。病気は根治されたとしても、このように生活が制限されることは、患者さんにとって辛いことです。

 

(2) 外耳道後壁保存型

一方、外耳道後壁の骨を削らないで保存するように手術を行えば、自然な形で外耳道が保存できるため、
① 耳掃除のための長年にわたる受診が不要となりうる
② イヤホンや補聴器を装用するのに支障が無い
③ 自然な状態な聞こえが得られる
などの利点がありますが、習熟した手術手技が求められます。

本手術法の長所は、術後の外耳道の状態が正常に保たれるため、術後の治癒が早く得られ、水泳や補聴器装用などができるようになることが挙げられます。短所としては、外耳道を温存するために、手術中の視野の確保が難しく、再発を予防する手術手技に習熟が必要で難しいことが挙げられます。

 

3) 当院での鼓室形成術の特色

外耳道を保存するために、手術中に内視鏡を用いて真珠腫の死角を無くすことや、真珠腫摘出時に真珠腫母膜の連続性を保ちながら摘出する工夫をしています。薄切軟骨を用いた外耳道の再建を行うことで骨の欠損部が強固に再建され、真珠腫再発の予防にもなります。

 

藤田医科大学ばんたね病院では、真珠腫に対する手術を、可能な限り外耳道後壁保存型で行います。ただし、真珠腫による骨の破壊が高度な場合や繰り返し再発している場合は外耳道後壁削開型の方法を選択することもあります。
より自然な元の耳の形態を保つことで、我々は、聴力改善や真珠腫や炎症の病巣を除去することはもちろんのこと、日常生活が快適に送れるようにすることを治療の目標としています。

 


3. 補聴器と人工内耳

【老人性難聴】
加齢によって誰にでも起こりうるものですが、個人差が大きく、同年代でも症状に差がみられます。音を感じる器官(蝸牛)や神経の機能低下で感音難聴で高い音から次第に聴こえにくくなり、ことばの聴き取り能力も低下します。さらに中年期以降の難聴はコミュニケーションを妨げ、活動性や社会性の低下を招き、うつや認知症につながるとされています。認知症のリスクは中等度難聴では3倍、高度難聴では5倍高まると報告されています。まだ有効な治療法はなく、補聴器が有効な手段となります。難聴を放置せずに、積極的に補聴器を使用して脳に刺激を入れて活用させることが大切です。

 

【遺伝性難聴】
先天性難聴や若年発症型両側性感音難聴の原因を調べるために遺伝学的な検査を行っています。検査には健康保険が適応されます。

 

【さまざまな原因で生じる難聴】
さまざまな原因で難聴の急速な悪化を繰り返す場合があります。高度・重度感音難聴に対する人工内耳植込術や、外耳道閉鎖症に対する聴力改善を考慮した外耳道形成術や植込型骨導補聴器手術など、幅広く手術を行っています。

 

【人工内耳植込術】
人工内耳は世界でも普及している人工聴覚器の一つで、補聴器を使用してもほとんど聞き取ることができない難聴に対しては唯一の聴覚を再獲得する手段です。

世界中で40万人以上の方が使用し、日本でも全国で年間1,000人以上の方が手術を受けています。人工内耳の機器や手術手技は近年目覚ましい進化を遂げており、2017年には手術適応が改訂され拡大されています。これまでの適応であった重度難聴の方(身体障害者2級、3級相当)に加え、高度難聴の方で補聴器を活用しても言葉の聞き取りが十分でない(身体障害者4級相当、最高語音明瞭度が50 %以下)方も保険診療で人工内耳植込術が適応となりました。

 

人工内耳は機能が低下した内耳の代わりに音を電気刺激に変換し、蝸牛神経から直接脳へ音情報を伝える装置です。補聴器の調整が困難な高音域の難聴に対して特に有効です。適切な調整を経て、ほとんどの方が環境音や言葉を聞き取ることができます。

難聴でお困りの方や、人工内耳装用をお考えの方は、どうぞお気軽にご相談ください。 

4. メニエール病の検査と治療

低音がこえにくくなると同時に、耳がつまった感じ、めまい、耳鳴りなどが起こります。めまいは数十分から数時間持続し、それが反復します。症状が進行すると中音域、高音域にも難聴が生じ、不可逆的となります。ストレス・睡眠不足・疲労蓄積も大きく関与していると言われています。内耳のむくみ(内リンパ水腫)が病態であり、30~40代の方に多く見られます。

 診察では赤外線フレンツェル眼鏡にて眼球の動き(眼振)を観察し、その上で聴力検査、平衡機能検査を行い、診断します。平衡機能検査として近年広まってきたvHIT検査(ビデオヘッドインパルステスト)やVEMP検査(前庭誘発筋電位測定)も実施しており、さらに内リンパ水腫の確認のため、遅延造影MRIを撮像しています。

治療としては、睡眠時間の確保、運動する習慣をつける、規則正しい生活をする、などの生活習慣の改善やめまいや嘔吐に対して安静や対症的療法、薬物療法を行います。

 これらの保存的治療によってメニエール病の多くの患者さんが改善しますが、繰り返すことが多いのもこの疾患の特徴です。内服薬の効果がない場合や、めまいが頻回に起こり社会生活に支障をきたす場合には、中耳加圧療法や手術(内リンパ嚢開放術)が適応になります。

中耳加圧療法
1日2回、外耳道にチューブを当てて3分間、鼓膜へ陰圧と陽圧をくり返しかけます。併せて、めまい日誌をつけていただき、日頃の症状の変化を記録するとともにめまい症状について自己評価を行います。

 内リンパ嚢開放術
メニエール病の方で薬物治療でめまいが制御できない患者が対象の手術方法です。前述の中耳加圧療法は内リンパ嚢開放術の術前、術後いずれも行うことができます。内リンパ嚢開放術はメニエール病の患者において内耳に溜まった内リンパの流出路を作製する手術です。