変形性股関節症などの股関節疾患や大腿骨近位部骨折などの股関節外傷に対して最適な低侵襲治療を提供
対象疾患
成人疾患
小児疾患
代表的疾患①
変形性股関節症について
変形性股関節症は、関節軟骨の変性・摩耗により関節の破壊が生じ、これに対する反応性の骨増殖を特徴とする疾患である。
② 変形性股関節症の原因
変形性股関節症は原疾患が明らかでない一次性股関節症と、原疾患の推定される二次性股関節症に分類できる。本邦では二次性股関節症が全股関節症の約80%を占めており、その原因として発育性股関節形成不全(DDH)や寛骨臼形成不全などの先天性疾患などが知られている。
③ 変形性股関節症の分類
変形性股関節症は、日本整形外科学会の基準により、前期、初期、進行期、末期に分類される。分類は関節裂隙の状態、寛骨臼および骨頭の変化、痛みや歩行障害、股関節の可動域からなされる。その中でも基本となり、股関節痛や可動域制限などの臨床症状と最も関連が高いのは関節裂隙狭小化の程度である。
初期:関節裂隙の狭小化はない
前期:軽度の関節裂隙狭小化を認める。
進行期:関節裂隙狭小化を認める(関節裂隙幅が2mm~寛骨臼と骨頭の部分接触)
末期:関節裂隙が完全に消失し、寛骨臼と骨頭が広範囲に接触

変形性股関節症の症状・診断・治療についてのより詳しい情報は下記のリンクに掲載されておりますのでご興味のある方はバナーをクリックしてご覧ください。
治療アプローチ (特に変形性股関節症)
保存療法
▶詳しくはこちら:金治先生 | 特集指導者インタビュー | 藤田医科大学 整形外科
PFC-FD療法とは
当院では「今は手術できない。もしくはもうしばらくは手術したくない」という考えの患者に、バイオセラピー【PFC-FD療法】をご紹介しております。ご自身の血液から血小板由来の成長因子を抽出し、患部に注入することにより、痛みの緩和や傷ついた部位の機能改善を目指す治療です。ご興味がお有りの方はぜひご相談ください。
PRP(Platelet Rich Plasma:多血小板血漿)療法とは、患者様自身の血液に含まれる成長因子による修復機能を促進して治癒を目指す再生医療です。 近年、メジャーリーガーなどプロスポーツ選手のケガの治療にPRP療法が行われ話題を集めていますが、一般の方への変形性関節症・腱や筋肉の損傷などに対する治療法としても注目されています。
PFC-FD療法はPRP療法を応用した技術です。患者自身の血液を採取しPRPを抽出してさらに成長因子を豊富に含むPFC-FD(Platelet-derived Factor Concentrate Freeze Dry:血小板由来因子濃縮物-凍結真空乾燥)に加工したものを患部に注射します。その結果自己修復機能が促進され、痛みが軽減されたり損傷部が治癒されたりします。
現在ではPFC-FD療法もPRP療法と同様に、関節症・関節周囲の靭帯・軟部組織などの治療に活用が始まっています。
PFC-FD療法の流れ
① 診察の上、約50mlの血液を採取→厳格な管理がなされた加工センターで検査・加工
② 採血から約3週間後、血小板由来の成長因子を患部へ注射
1回 200,000円(自由診療)
詳細はスタッフや医師にお尋ねください。
外科的治療
・股関節疾患に関わる低侵襲治療(関節包靭帯を温存した股関節鏡視下手術)
・骨切り術(骨盤、大腿骨)
・当科で行っているMIS(最小侵襲手術)+関節包靭帯温存手技+最新手術支援ロボット併用の人工股関節置換術について
藤田医科大学ばんたね病院人工関節センターは米国ジンマー・バイオメット社が開発した人工股関節置換手術支援ロボット「ROSA Hip システム」を藤田医科大学病院とともにアジア※で初めて導入しました。2022年10月22日にばんたね病院でアジア※初の人工股関節置換術(Rosa Hipを使用したMIS関節包靭帯温存両側同時人工股関節置換術)を実施し、その後の手術でも良好な成績を収めています(※オーストラリアを除く)。
手術支援ロボット「ROSA Hip」
「ROSA Hipシステム」は、人工股関節の股関節側インプラントの設置角度サポートや両脚のバランスのズレを計測し最適なインプラントを選択できる機能など、正確なナビゲーション機能で手術中の執刀医をサポートするのが特長で、これまで術者の経験にゆだねられていたインプラントの設置をロボットがアシストすることによって、より低侵襲で合併症リスクの少ない手術を可能としています。「ROSA Hipシステム」による人工股関節置換手術は保険適応となっています。
〈ROSA Hipの特長〉
難易度が高い人工股関節置換術
人工股関節置換術は、保存療法を行っても十分な効果が得られない場合や、重度の変形性股関節症および先天性の股関節形成不全の患者さんをなどを対象に、最も多く選択されている治療法です。股関節の損傷している部分を人工股関節に置き換えることで、痛みを取り除き、歩く力を取り戻すことを目的としています。
MIS法+ロボット支援手術でより体への負担が少ない
藤田医科大学整形外科では、MIS法(最小侵襲手術)と呼ばれる術式による人工膝・股関節置換術に積極的に取り組んでいます。同術式は、筋肉・靱帯・腱など関節の周辺組織に可能な限りメスを入れず行うため、
・従来の術式と比べて痛みが少なく、回復が早い
・筋肉を切らないため術後早期の脱臼が少ない
・可動域が制限されないため、スポーツへの復帰等も可能
・従来法の約半分ほどの切開で済むため、審美的に優位などのメリットがあります。
一方で同術式は難易度が高く、専門的な知識と高度なテクニックが必要という課題もあります。同術式にロボット支援手術を組み合わせることで、これらの課題を克服し、さらなる低侵襲手術の普及およびそれによる患者さんのQOL向上に貢献していくことをめざします。
健康寿命の延伸に向けて
人工股関節置換術の件数は年々増加傾向にあり、全国で年間約7万例にのぼります。手術を受ける患者さんは若年化しており、より高い術後のQOL向上が求められています。患者さんが術前と変わらない生活を送れるよう、当院では術者の技術向上と並行してロボット支援手術の導入を進め、低侵襲で合併症リスクの少ない手術を実践することで、健康寿命の延伸に寄与していきたいと考えています。健康寿命延伸に関してロコモと変形性股関節症に関する解説動画が公開されておりますのでこちらをクリックしてご覧ください。
▶詳しくはこちら①:金治 有彦 先生|関節包靭帯を切らない、新たなMIS(最小侵襲手術)|第255回 股関節の痛みはあきらめずに受診を! 人工股関節の手術は日々進歩しています|人工関節ドットコム (jinko-kansetsu.com)
▶詳しくはこちら②:金治先生 | 特集指導者インタビュー | 藤田医科大学 整形外科
当院のTHAで使用しているAR-ナビゲーションシステム(AR Hip)の写真と動画
金治教授 基本情報
■金治有彦(整形外科臨床教授、人工関節センター長:火曜日午前外来)が担当
■人工関節センターについてはこちら:人工関節センター | 藤田医科大学 ばんたね病院
・金治有彦教授から股関節に痛みのある患者さんに対してメッセージ(動画)があります。
「【関節が痛い.com】藤田医科大学ばんたね病院 金治 有彦先生メッセージーYouTube」はこちら
代表的疾患②
股関節唇損傷・股関節インピンジメントについて
股関節唇は、股関節を構成する骨盤の寛骨臼(かんこつきゅう)の縁を取りまくようについている弾力のある軟骨組織です。寛骨臼にはまっている大腿骨頭(だいたいこっとう)を包み込むように安定性を与え、股関節へかかる衝撃を和らげています。
関節唇には神経が存在し、損傷を受けると痛みを生じることがあります。 関節唇損傷を生じると骨頭が安定しなくなり、次第に軟骨が破壊され、変形性股関節症へ移行すると考えられています。
股関節を深く屈曲するスポーツの選手によくみられる障害です。股関節の寛骨臼と大腿骨頭の形態異常が原因となり、股関節を深く曲げる運動を行うたびに、寛骨臼と大腿骨頭が衝突を繰り返す、股関節インピンジメント(FAI)によってして股関節唇が損傷すると考えられています。
股関節唇の損傷が軽度の場合は徐々に症状が進行して40代で発症するケースもみられます。
股関節インピンジメント(大腿骨寛骨臼インピンジメント)
定義
股関節を形成する大腿骨や寛骨臼の骨形態異常のため、反復動作によって関節軟骨や関節唇などの股関節周辺構造に微細な損傷や変性をきたす疾患をいいます。
分類
寛骨臼に骨形態異常があるpincer type FAI,大腿骨に骨形態異常があるcam type FAI、そしてpincer typeとcam typeが合併するmixed type FAIに分類されます。Cam type, pincer type, mixed typeいずれのインピンジメントにおいても一般に関節唇の損傷が認められます。関節唇損傷は、寛骨臼前上部が好発部位であるが、寛骨臼の後下部にも認められる例も報告されています。
日本股関節学会FAI(狭義*1)診断指針
*1:明らかな股関節疾患に続発する骨形態異常を除いた大腿骨─寛骨臼間のインピンジメント。
・Pincer typeのインピンジメントを示唆する所見:
①CE角*2 40°以上
②CE角*2 30°以上かつacetabular roof obliquity(ARO)0°以下
③CE角*2 25°以上かつcross-over sign*3陽性
・正確なX線正面像による評価を要する。特にcross-over sign*3は偽陽性が生じやすいことから,③の場合においてはCT,MRIで寛骨臼のretroversion*4の存在を確認することを推奨する。
*2:単純X線両股関節正面像において,骨頭中心と寛骨臼硬化帯外側を結ぶ線と骨盤水平線に対する垂線のなす角。
*3:単純X線股関節正面像において,寛骨臼前壁縁と後壁縁が交差する所見であり,寛骨臼のretroversionを示唆する。
*4:後方開き。正常寛骨臼は前方開きである。
・Cam typeのインピンジメントを示唆する所見:
①CE角25°以上
②主項目:α角*5(55°以上)
③副項目:head-neck offset ratio*6(0.14未満),pistol grip変形*7,herniation pit*8
(主項目を含む2項目以上の所見を要する)
*5:単純X線大腿骨頸部側面像において,骨頭中心と頸部最狭部中心を結ぶ線と,前方の骨頭頸部移行部の曲率変化点と骨頭中心を結ぶ線とのなす角。
*6:大腿骨頸部側面像において,頸部軸に平行な骨頭前縁を通る接線と頸部最狭部前縁を通る接線との距離(OS)の骨頭径(D)に対する比率(OS/D)。
*7:単純X線両股関節正面像において,骨頭頸部移行部の外側縁が平坦化し,骨頭と頸部間のoffsetが減少する変形。
*8:単純X線両股関節正面像あるいは頸部側面像において,骨頭頸部移行部から頸部前外側に生じる小卵円形で硬化像に囲まれた骨透亮像(CTやMRIによる評価も可)。
以下の画像所見を満たし,臨床症状(股関節痛)を有する症例を臨床的にFAIと判断します。
① 前方インピンジメントテスト陽性(股関節屈曲・内旋位での疼痛誘発を評価)
② 股関節屈曲内旋角度の低下(股関節90°屈曲位にて内旋角度の健側との差を比較)
診断のポイント
① 症状 鼠径部痛, 股関節痛,股関節可動域制限(特に内旋制限)
② 検査所見
股関節インピンジメントでは特に股関節の屈曲や内旋の最終可動域において再現性のある鼡径部痛が生じる例が多いことから, 前方インピンジメントテストは診断上有用な徒手検査です。
前方インピンジメントテスト:他動的な股関節屈曲100°での内転・内旋で疼痛が出現した場合には陽性と診断します。
③ 画像所見
単純X線撮影やCTを行い、寛骨臼や大腿骨頸部の骨形態異常を有するか否かを診断します。またMRI(放射状を含む)を行い関節唇損傷の有無・程度を評価します。
治療アプローチ
① 保存療法:一般的に股関節インピンジメントの股関節痛は約70〜80%が保存療法によって症状が改善します。保存療法として主にADL(日常生活動作)指導、リハビリテーション、投薬、注射がまず行われます。
・ADL指導:日常動作などでの痛みの出る動きを制限することにより患部の安静を図ります。
・リハビリテーション:体幹や脊柱の柔軟性・可動域の改善や骨盤周囲の筋力(特に臀筋)の強化、骨盤可動性の改善を行うことにより股関節への負担を軽減させます。
・内服: 投薬消炎鎮痛剤の内服により患部の炎症を抑えます。
・関節内注射:ステロイドの頻回使用は行わないようにします。ヒアルロン酸(HA)の注射が行われるが、Platelet-rich plasma (PRP)療法など再生療法の効果が認められる場合もあり、最近注目されています。
② 手術療法:以下のようなケースでは手術の適応を考慮します。
・保存療法・リハビリ施行後3~6ヶ月以上経過しても軽減しない疼痛を有する場合。
・股関節の可動域制限が強く日常生活に悪影響を及ぼしている場合。
・日常生活で症状が改善するが活動性の高いスポーツ競技レベルでは疼痛が残存してスポーツ活動の継続が困難な場合。
手術方法
一般に股関節鏡視下関節唇修復術が行われます。鏡視下に股関節唇損傷が確認され、断裂した関節唇の不安定性同時に認められる場合には、痛みの原因である関節唇の損傷部位を縫合することにより除痛を図ります。当科では関節包靭帯を温存した低侵襲2ポータル法により股関節鏡視下手術を行っており、良好な成績を報告しています。
股関節の痛みが出る変形性股関節症の原因は、骨盤の臼蓋の覆いが浅い臼蓋形成不全が多いとされてきましたが、FAIの概念が提唱されてからは、股関節唇損傷も変形性股関節症の原因となっていたことがわかってきました。X線検査では判断できない原因不明の股関節の痛みがある場合は、専門医を受診しましょう。
参考文献
日本整形外科学会 日本股関節学会「変形性股関節症ガイドライン2016」 2016年5月25日 改訂第2版
日本整形外科スポーツ医学会広報委員会 「17.股関節インピンジメント」